アマチュアサイクリストが本気でツール・ド・フランスを走った結果

アマチュアサイクリストは、プロと同じ日数、同じコースでツール・ド・フランスを完走することができるのか? そんなことを本気で調べたアブストラクト論文が面白かったので紹介する。

元ネタ

T. Backhuijs, P. Zanen, A. de Gast, W. van der Meulen, and F. Backx: Amateur cyclists can complete the full Tour de France in the same amount of days as professional cyclists, Journal of Science and Cycling, Vol. 4, No. 2, 2015.

2015年に開催されたScience & Cycling Conferenceという国際会議で発表されたアブストラクト論文である。この国際会議は、毎年ツール・ド・フランスのグランデパール(第1ステージの出発地点のこと)の地で行われているらしい。ウェブサイトによると、2017年は6月28日~29日にデュッセルドルフで開催されるようだ。私も行きたいぞ。

なお、通常の論文が6ページ以上であることが多いのに対し、アブストラクト論文は研究の概要のみを記載した1~2ページの論文であることが多い。従って、細かい点まではあまり書かれていない。国際会議ではよくあるフォーマットである。

アマチュアサイクリストはプロと同じ日数でツール・ド・フランスのフルコースを完走できる

概要と方法

この研究は、2012年6月29日から2012年8が19日まで行われた前向きコホート研究である。被験者は24名(内、女性3名)の29~60歳のアマチュアサイクリストで、ツール・ド・フランス2012(以下、ツール)のレース1日前にプロと全く同じコースを走った。もちろん、その日の内にゴールしなければ完走扱いにはならない。なお、全ての被験者はどんな理由であろうとも1日もしくはそれ以上の日数をスキップすることが許された。この場合は、ツールをフルに完走したとは見なされない。研究の目的は、アマチュアサイクリストがツールを完走するための潜在的因子は何かを調査することである。

全ての被験者は、事前のトレーニングに関する質問に答えた。また、ツールスタートの6ヶ月前には心肺運動負荷試験 (CPET: Cardiopulmonary Exercise Test) を行った。他にもツール中にボルグスケール(主観的強度)やその他データについても答えている(正確な内容については論文参照)。

結果

分析には23名の被験者(平均年齢48歳)のデータが使用された(1名はツール完走のモチベーションを失って除外された)。23名の被験者はツールスタート前の6ヶ月間で平均5,931kmのトレーニングを行っており、(文脈が正確には分からないのだが、多分スタート6ヶ月前の)CPETでは、被験者のVO2Maxは平均39mL/min/kgで、最大負荷は平均4.3W/kgであった。

78%(18名)の被験者がツールのフルコースを完走した。彼らは3,564km(獲得標高45,676m)を141時間、平均時速25.6km/hで走りきった。全ての完走者はツールスタート前に測定された最大負荷は4.0W/kg以上だった (p = 0.003)。しかし、50歳以上 (p = 0.059) や6,000km以上 (p = 0.098) のトレーニング量といった他の要因は、ツールを完走できるかどうかの指標としては有意な差として現れなかった。5名の被験者がツールを完走することができず、原因はそれぞれ膝蓋大腿疼痛症候群(1名)、 下気道感染症(3名)、及び鎖骨骨折(1名)であった。ツールを完走した被験者の内22%が、完走後病気によって数日間仕事ができなかった

結論

アマチュアサイクリストがツールをプロと同じ日数で完走することは可能である。しかし研究規模が小さいため、他のアマチュアサイクリスト達が似たような挑戦に直面したとき、何が成功するための潜在的因子なのか推定することは困難であることは心に留めておく必要がある。

解説

6ヶ月平均5,931kmということは、月平均だと988.5kmということになる。しかし、6,000km以上走っているかどうかは完走できるかどうかの指標に(統計的な結果としては)ならないとばっさり切られている。まぁ、月1000~1300kmくらいで乗鞍入賞してしまう某人物もいるくらいなので、この結果に意外性は無い。年齢もしかり。性別に関しては、被験者数が少なすぎて元々比較していないものと思われる。

完走できるかどうかの重要なファクターは、何よりもVO2Maxだとこの論文は主張している。記載されているVO2Maxのデータがツール6ヶ月前のものなのか、それともツール直前にもう1回CPETを実施して得られたデータなのかが紛らわしい文章のせいで分からなかったのだが、いずれにせよツールを完走するためにはVO2Maxの負荷でパワーウェイトレシオ4.0W/kgは必要であると統計的な分析結果は示している。アンドリュー・コーガンが提唱するパワープロファイル・チャートによると、VO2Max(5分)におけるパワーウェイトレシオ4.0W/kg以上というのは、”Moderate”に相当する。つまり、パワープロファイル的視点から見ると、中級者サイクリスト以上は十分ツールを完走できると言えそうだ。

なお、CPETとは運動耐容能(体力)を評価する検査のことで、嫌気性代謝閾値 (AT: Anaerobic Threshold) と最大酸素摂取量 (VO2Max) を求めることができる。詳しく知りたい方は心肺運動負荷試験とググればいろいろ出てくる。

ステージをスキップしたりしてツールを完走できなかった原因で1番多かったのは、循環器系の疾患だった。2日間の休息日だけでは回復が追いつかなかったのだろうと論文では述べている。また、この5名を指しているのかそれともそれ以外の他の5名を指しているのか分からないのだが、たとえ完走できたとしても後で病気になって仕事ができなかった人が22%(5名)いたという現実も突きつけている。恐ろしや。

まとめ

アマチュアサイクリストがツール・ド・フランス2012を完走できるか調査したアブストラクト論文を紹介した。統計的な分析によると、VO2Max時のパワーウェイトレシオが4.0W/kg以上あればツールを完走できるらしい。

概要しか書かれていないアブストラクト論文だったため様々な点で疑問は残るが、内容としては面白いと感じた。流石に毎回毎回ツールで追跡調査するのは困難だろうが、例えば地獄のライドイベントとして有名なThe PEAKSを完走できる要件は何かを調査してみるのは面白いだろう。誰かやってくれないかなー。

最後に

何か間違い等がありましたら、Blogのコメント、Twitterなどでお知らせください。よろしくお願いします。

アイキャッチ画像 by youkeys “Tour de France 2016 Stage 21 Paris Champs-Elysées”

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