ペダリングジストニア(トレーニング編)

ペダリング時の動作特異性ジストニアに関して、複数回のシリーズに分けてお送りする。シリーズ5回目は、効率的なリハビリメニューについて考察し、実際のトレーニングデータからその効果を検証する。

連載の一覧はこちら。

  1. 原因編
  2. データ解析編
  3. 発生機序編
  4. リハビリ戦略編
  5. トレーニング編

※諸注意

この記事は、できるだけ客観的なデータや論文に基づいて書くように努力していますが、かなり広範囲にわたって私個人の体験と意見、さらには他人が提唱した仮説を元に構成されています。もしこの記事を参考にする方は、そのことを十分に承知したうえで自己責任でご活用ください。

高強度運動は運動記憶の定着を高める

高強度運動(高強度インターバルトレーニング)は、様々な側面において良い効果をもたらすことが知られている。ここでは、高強度運動を行うことによって、獲得した運動技術(記憶)を長時間にわたって保持できる効果があるという以下の研究を発見したので、これを参考にする。

M. Roig , K. Skriver, J. Lundbye-Jensen, B. Kiens, and J. B. Nielsen: A Single Bout of Exercise Improves Motor Memory, PLoS ONE 7(9): e44594, 2012.

概要

定期的な運動は認知と脳機能に良い効果をもたらす。そこで、(高強度)運動が運動技術の習得と保持に対して良い効果をもたらすかどうか検証した。さらに、運動のタイミングが運動技術の習得と保持に何らかの影響があるかどうかについても調査した。

実験デザイン

48人の若い被験者に、モニターに映された目標物をハンドル操作によって正確にトラッキングするという課題を与え、

  1. 課題を練習する前に運動するグループ
  2. 課題を練習した後に運動するグループ
  3. 課題を練習した後は休息する(何もしない)グループ

の3グループに分けた。運動技術の習得度はトラッキングの正確性(誤差)によって評価され、運動技術をどれくらい保持しているかは練習1時間後、24時間後、及び7日後に評価された。

運動するグループは、血中乳酸濃度が10 mmol/L以上になるような高強度インターバルトレーニングを自転車エルゴメーターで20分行う。2分のウォームアップ後、3分(レスト2分)の高強度インターバルを3本行う。残りの3分は低強度で漕いでもいいし、休んでもよい(休んだ場合は実質17分)。運動強度を確認するために運動直後に採血が行われ、血中乳酸濃度が測定された。

結果

運動技術の習得スピードにグループ間差は無かった。一方で、運動グループ (1, 2) は休息グループ (3) と比較して24時間及び7日後の運動技術の保持力が有意に良かった。さらに、練習した後に運動するグループ (2) は、練習する前に運動するグループ (1) と比較して7日後における運動記憶の保持力が有意に良かった。

結論

運動技術の習得において、練習の前後に高強度運動を行うことは運動記憶の保持力を向上させる。また、練習の後に運動を行った方がより効果的であることが示唆された。

補足

有酸素運動の上限指標の1つに、乳酸性作業閾値 (LT: Lactate Threshold) がある。一般的に、LTは血中乳酸濃度が2 mmol/Lになる強度と定義される。この研究の実験デザインはそのLT閾値を遙かに上回る10 mmol/Lを超える強度を指定しているので、十分に高強度であると言える。

リハビリトレーニングの基本方針

私の場合、習得したい(思い出したい)運動技術はもちろんペダリングである。しかし、上記論文における「運動」が獲得したい技術そのものを含んでいるのでちょっとしたジレンマを抱えているが、まぁしょうがない。

さて、上記論文によるとペダリングの練習をしてから高強度運動を行った方がいいということなので、リハビリトレーニングメニューの方針を以下のように定めた。

  1. ジテツウは最短往復で短時間高強度(15km + 17km、走行時間合計約1時間)
  2. 後半は常に最大強度
  3. 週末はローラーでペダリングを確認

あれ、いつものジテツウと大差ないような……。多分気のせいだ。そもそも、長時間乗ったところで疲労によって不随意運動が増悪するだけで、リハビリとしてはほとんど意味が無いと思われる。

実際のワークアウトデータ

以上の方針を踏まえて、実際にどんなトレーニングを行っているかを紹介する。まずはトレーニング量から。

統計値とPMC

2017年1月1日~3月14日までの統計値は、このようになった。

距離 2,045.79 km(内、室内ローラー829.63 km)
タイム 75時間41分27秒(内、室内ローラー30時間23分0秒)
高度上昇量 7,987 m
平均スピード 27.3 km/h
平均心拍 143 bpm
平均ケイデンス 81 rpm
備考 合計94ワークアウト(ジテツウ往路と復路は別ワークアウトとしてカウント)

昨年の同時期と比べて走行距離が55.0% (3,722.43 km) 、走行時間が50.0% (152時間20分31秒) なので、練習量はかなり落ちている。これは仕方ない。

とはいえ、改めてデータを見返すと結構乗ってるなぁという印象だ。正直に白状すると、休止宣言をブログにアップした次の日からすでに自転車に乗っていた。データを非公開にして潜伏したのは、醜態を晒すことがストレスになりスーパーポジティブな精神状態を維持できないと考えたからだ。

次に、2017年1月1日~3月14日までのPMC (Performance Management Chart) を図1に示す。

図1. TSSベースのPMC(2017年1月1日~3月14日)

ジテツウは短時間高強度なので、TSSは往復合計でだいたい40~90の間になる。途中で風邪を引いたり胃腸炎になったりしたせいでCTLはあまり伸びず、50~60の間を行ったり来たりしている。

なお、この図には間違いが1つある。FTP設定だ。FTPテストはほとんど行ったことが無く(!)去年の11月頃にGoldenCheetahがはじき出した推定値をそのまま利用しているので、298Wとべらぼーに高い……。とはいえ、ジストニアの症状を抱えているためFTPテストをしたところで極端に低い値しか出ないのは目に見えてるし、自分の体をデータに合わせてやれってことでそのまま放置プレイ続行中。

余談になるが、コンディションの管理は基本的に心拍数ベースであるTRIMPを使用している。図2にTRIMPベースのPMCを示す。

図2. TRIMPベースのPMC(2017年1月1日~3月14日)

週末ローラー練の値がちょっと違うだけで、TSBなどの変動パターンはTSSベースとほぼ同じである。

1秒及び20秒最大パワー

とにかく高強度ということで、どれくらいの強度でトレーニングをしているかについて4つの指標を紹介する。まずは最初の2つ、1秒及び20秒最大パワーの時系列変化を図3に示す。

図3. 1秒及び20秒最大パワーの時系列変化(2017年1月1日~3月14日)

ジストニアの症状が酷かった1月頃は1秒700Wすら出せていなかったが、不随意運動の症状が改善するにつれて最大パワーも上がっていき、どちらも自己ベストでは無いものの1秒の最大パワーは922W、20秒は最大711Wを記録した。

NP (Normalized Power) とIF (Intensity Factor)

次に、残り2つのNPとIFの時系列変化を図4に示す。

図4. NPとIFの時系列変化(2017年1月1日~3月14日)

グラフ上にプロットされた点がNP、点の上に書かれている小数点の数値がIFだ。最もNPが高かったのは2017年3月3日のジテツウ往路で、31分42秒の走行で平均パワー241.7W、NP280.6W、IF0.94、平均ペダリング効率56%(左: 63%-50%: 右)となった(グラフ上の値は往復の平均値である)。実際のデータはこちら。

先ほども述べたようにFTPが実際よりかなり高い設定になっているため、この数値は恐らく現状を正しく表していない。IFはグラフで示した値よりさらに高いと思われる。

ペダリング効率の変遷

ペダリング効率の時系列変化を図5に示す。

図5. ペダリング効率の時系列変化(2017年1月1日~3月14日)

図を見て分かるように、1月の下旬から2月の中旬にかけてペダリング効率が下がっている。ペダリング効率が下がるということは、足首が暴れているということだ。しかし、こうなることはあらかじめ予想していたので不安は無かった。強化学習の仕組みを理解していれば当然起こるであろう現象だったからだ。

前回の記事において、強化学習における「行動選択のランダム性」についてはあまり深く言及しなかった。強化学習のアルゴリズムは、ある程度ランダムに行動を選択することによって探索の範囲を広げ、最適な行動選択を探索する。しかし、ランダム性が小さすぎる場合、まだより良い行動があるにも関わらず別の行動を選択し続けることを学習してしまう場合がある(ランダム性が少ないと局所解に陥る可能性が高くなる)。わざとランダムに行動を選択することで局所解から脱出し、探索を続行できるのだ。

ランダムに足首が動いている様子は、以下の動画で確認することができる。

この動画は2017年2月19日に撮ったものだが、足首がくねくねと動いている様子が観察できる。要は、足首をランダムに動かすことによって脳がどのような行動が最適なのか探索していると考えられる。その結果、足首を曲げすぎたせいでふくらはぎの伸張反射が起こったりしているのだ。

ということで、リハビリ過程において体がてんでばらばらに動く(思い通りの動きをしてくれない)ことは、強化学習アルゴリズムの観点から言えば当たり前のことで、ジストニアの症状が悪化したと勘違いしてはならない。ここで症状が悪化したと思って落ち込んでしまうと、スーパーポジティブな精神状態が崩れて本当に元の悪い状態へ戻ってしまう恐れがある。体が今までに無い変な動きを始めたら「お、探索が進んでるな」くらいのポジティブな気持ちを持つことが肝心だ。

まとめ

リハビリトレーニングのメニューについて、短時間高強度かつ後半に強度を上げるトレーニングが有効であると考えた。平日はジテツウの往復で、1回30分程度かつ後半に最大強度のインターバルを入れるトレーニングを2回、週末はローラーで平日のリハビリ成果を確認した。その結果、ジストニアの症状はかなり改善され、高強度ではほぼ不随意運動が消滅した。

現在、リハビリは次の段階に進んでいる。低強度の運動ではまだジストニアの症状が現れる。完全に不随意運動をなくすためには、低強度のペダリングにおいても克服しなければならない。焦らず、じっくり取り組んでいこう。

余談

高強度インターバルトレーニングの効果に関する論文は、検索すれば山ほど出てくる。以下の論文は、高強度運動は離散的な運動に対する運動学習の記憶回復を促進するという内容の論文である。ペダリングは連続的な運動になるのでこの論文で扱う対象とはずれているが、連続的な運動の運動学習に対しても同じような結果を報告している論文は、探せば出てきそうだ。

C. Mang , N. Snow , K. Wadden , K. Campbell , L. Boyd: High-Intensity Aerobic Exercise Enhances Motor Memory Retrieval, Medicine and science in sports and exercise, Vol. 48, Issue.12, p.p. 2477–2486, 2016.

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